苦労を買わないと将来はない 3/4(若松孝市さん)


天草出身の先輩方にランチをご馳走になりながら
成功の秘訣を聞くコーナー
『先輩!ゴチになります!!』

第5回目はこの方にお話をお伺いしました。

interview-201011-wakamatsu

株式会社 東京美工 代表取締役 若松孝市さん(姫戸町出身)

美術監督をつとめられた映画
「はやぶさ 遥かなる帰還」
公開されました。
聞き手 天草元気プロジェクト 松村・福本・佐伯・井上
取材日 2010/11/29
取材場所 懐石・会席料理 いかりや(新宿区)

苦労を買わないと将来はない 1/4(若松孝市さん)
苦労を買わないと将来はない 2/4(若松孝市さん)
苦労を買わないと将来はない 3/4(若松孝市さん)
苦労を買わないと将来はない 4/4(若松孝市さん)

新宿のいかりやさんで美味しいお酒を頂きながら、お話を伺いました。
時代劇の装飾のお話を伺っているところからです。

「木村大作さんに会っていなかったら単なる管理職だった」

若松:29で一応そこの長になった。「よし、これから」ということで、
最初は管理部門、書類作りから始めていったんだよ。

AGP:現場だけじゃなくて、書類作りもなんですね。

若松:書類作りから、予算の出し方から。そういう形で東映に入ったんだけど
「どこの馬の骨だ」って言われて。
一応、まだそのときは関西美工っていう会社だったけど、どこの馬の骨か分からない、
この青二才なんて言われて、もうかーっと。

AGP:なりますよね。

若松:原田知世の映画があって、またうちの連中がミスったとかって美術監督に言われて、
美術監督、何者ぞとケンカになる。そこにいる美術助手が、おれと仲良かった。
それもおれみたいなやつで、そいつがね、「若ちゃんしかやる人いないんじゃない」って言って、
そうだな、だったらやってやるよ。次から参上って行ったわけだ。

AGP:へー。

若松:で、第1作目が『ビッグマグナム 黒岩先生』だよ。漫画なんだけど、横山やすしさんだよ、主演が。

AGP:すごーい。

若松:それで「映画というものは!」ということで美術監督が、これをここに飾れっていう指示を出すわけ。

AGP:美術監督が出すわけですね。

若松:「この額はそこじゃない、あっちだ!」とガミガミ言うから、おれが「うるさいー」(笑)
その人は日本でも有名な美術監督で、おれよりだいぶ年上だけど。
「うるせえよ、だったら、アルバイト呼んで、そんなことやらせりゃいいじゃねえかよ」

AGP:装飾のプロを呼ぶなと。

若松:うん。すごくいいデザインする美術監督なんだけど、そのおやじと10本ぐらいやったかな。
でも指示は一切聞かない。

AGP:聞かない?

若松:おれは、おれの感じ、勝手でやる。監督が「また勝手にやりやがった!」って。
おれは「あんたよりおれの方がセンスはあるよ」って言って。

AGP:(笑)

若松:テレビ局でその当時は金ドラっていう、一番TBSじゃメインのトレンディードラマだったんだけど、
その装飾をみて、「あんな家具どこで仕入れるんですか」ってよく聞かれたんだよ。
装飾の案を五つ、六つ出すと、大体デザイナーが「さすがですね」ってなってたんだ。
でもそのおやじに七つぐらい出しても、八つ目を出してきたおやじなんだよ。

AGP:へー。

若松:なかなか骨あるな、闘おうって。それから、おれ闘った。

AGP:職人同士の。

若松:うん。そしたら、そのうち、飾っといてくれないと困るじゃんって言うようになってきたわけよ。
「どうだ、おれの言ってること間違いねえだろう」って。

AGP:すごい。

若松:で、やってるうちに、朝方になって、「若ちゃん、酒飲む?」って。
おれ、そのときはもうカンカンに、角立ってのに、おれの部屋で飲もうよって言うからさ。
いいよ、飲んでやろうじゃないかっていう感じで。
それで飲んでたら、「お前、むかつくんだよ」って。

AGP:その美術監督が若松さんに言うんですか?

若松:そう。だから、ぐわーって投げとばしたんだ。フロアじゃかわいそうだから、ベッドの上に。
当時、おれは装飾のメインスタッフになってるのに。メインのスタッフだよ。
それでもその当時は鼻くそみたいな扱いだったわけ。

AGP:誰でもいいよ的な。誰かやらせといてぐらいな雰囲気のものだったんですね。
それを大事なポジションっていうか、重要なポジションにした。

若松:うん。今、映画を見ると装飾っていう形でクレジットにも出てるよ。
これはおれが東宝から東映から全部そうしてきたんだ。

AGP:今まで誰でもいいよ、誰かにやらせとけばいいやぐらいなのを
重要なポジションに持ち上げてきたっていう自負ですね。

若松:で、そこにいく前にひとつ木村大作と一件ある。
その前の、『桜の樹の下で』でちょっとあって、次の梶間監督の『略奪愛』をやるんだけど、
装飾は誰だと。デザイナー、美術監督よりも装飾は誰だって、大作さんが言うから、
おれがやるよって言って言ったら

(木村)「シャンデリアを、京都で使ったあのシャンデリアを使いたいんで取り寄せてくれないかって」

(若松)「前回の作品で使ったんでしょう」

(木村)「あれ、いいからさ」

(若松)「前回で使ったのなんか使えねえよって」

AGP:木村大作さんに言ったんですか。

若松:うん。初対面で。で、「何って、あなたカメラマンじゃん。おれ、あなたに指図される覚えはねえよ。何、何」ってなったわけ(笑)。
監督がまあまあ、まあまあって。

AGP:すごい組み合わせですね。

若松:うん。

AGP:『劔岳』の組み合わせですね。

若松:それからね、黒澤明監督のときには大作さんはまだ助手なんだよ、撮影のね。
おれ美術監督だから、いろいろ作るんだけど、小道具が用意するのは、例えば、こういうの(居酒屋のメニュー)。
用意するわけだよ。これ全部、ほとんど目に見えるものはそうなんだ。

AGP:お皿とか、そういう。

若松:全部。

AGP:はしとかコップとか。

若松:これとか。

AGP:全部、小道具。

若松:うん。で、例えば、これを茶わんだとすると、こうやって。これを伊万里焼で飲むと。伊万里焼でいいの? 本当は益子焼きが合うんじゃねえのとか。

AGP:へー、そんな。

若松:で、これを大作さんはカメラマンでありながら、一生懸命走り回っていたんだよ。

AGP:自分のイメージしてるものが欲しいから。

若松:それとね、黒澤監督が。黒澤さんって、あなたたちが思うほど一人で決めてねえんだよ。
「大作、伊万里焼でも益子でもいいや。これ、益子焼きの湯飲み茶わんでいいと思う?」

AGP:聞くわけですね。

若松:うん。ほかの撮影部、カメラマンにもいいと思う? いや、伊万里焼よりも九谷焼がいいんじゃないの。
おれもそう思うんだけど、でも、みんな九谷焼に走るわけ。
例えば。で、これは、例えば、茶わん一つでもこうやって。ところが、アップになるわけだ、これが。

AGP:そうですよねえ。

若松:何でもいいってわけにいかねえんだよ。これを考えるのがどんだけ大変かっていうことを分かってない。

AGP:なるほど。本当にそうですね。

若松:これはアップになるわけ。だけどみんな、そんなものはどうでもいいって言うんだよ。
装飾品は芝居してねえからって。

AGP:相当な想像力がないと。

若松:そうそう。例えば、二人が喫茶店で話し合ってるなんて……。

AGP:シーンが。

若松:あったとするじゃん。セット作るときね、どういう喫茶店にするかっていうのはあるけど、
じゃあ、コーヒーカップがここに出てるか出てないかから考えるわけだよ。
後でウエートレスに持ってこさせると。じゃあ、コーヒー飲んでいるんだったら、何が要るの?

AGP:本当に想像力。砂糖とかミルクとかスプーンとか。

若松:そうそう。だから、中身のコーヒーも必要だしな。あと、もっとな、
頼んだ後はレシートが出てなきゃなんないとか。

AGP:ああ、すごーい。

若松:おしぼりが出てなきゃなんないとかいうことを発想しなきゃいけないわけよ。
それはいわゆる装飾、小道具さんがやるんだよ。
吉永小百合主演の『天国の大罪』って映画があって、『アラビアのロレンス』のオマー・シャリフも出てるんだよ。
で、大作さんが絶対に貸さないってところをコネで借りてきて、ここで撮影すると。
でもそこはおれにとっては最悪のところで、何もかもダメと規制がうるさい。
でも「若ちゃん、頼むよ。そこを何とかしてやってほしい」って。
段差があって、そういう感じを生かしたいのね。
大作さんが「貸さないところをおれが頭下げて貸してくれるようになったんで頼むよ」って。
おれは「やらねえよ」って(笑)。

AGP:なぜですか?木村さんとしちゃあ。えっみたいな話。

若松:えっ、何それ。向こうの物をびた一文動かさないで気を使ってやってよって。
気を使ってやるってどういうことよ。無理だよ。

AGP:そういうところなんですね。

若松:うん。額一つ掛けられないようなところにどうするんだよって。

AGP:のりも何も無理みたいな。傷ついたら大変だ。

若松:だろ。だから「セットでやる」と。
「若ちゃんさ、セットったって、ステージも空いてねえんだよ」って言うから「うるせえ、空いてるよ」

AGP:ステージっていうのはスタジオ?

若松:スタジオ。「空いてるよ!」「空いてねえって言ってんじゃん!」と言い合いになった。
「ちゃんと確かめてきたんだから、空いてんだ。ナンバー6っていうステージがよ!」
要はさ空いてたとしても、セット建てる金がないと。

AGP:うーん、なるほど。

若松:「別にいいよ、建てなくてって」なっちゃった。
おれは装飾係だ。「いいよ、建てなくて。平台っていうか、こういう床とか、ね、
それだけやってくれよ。それはありもんだからできるだろうよ」って言った。
そうしたら「壁とかどうすんの?」って言われたから「全部やるから」ってやったんだよ。
それは西田敏行さんと、オマー・シャリフさんの芝居のところだよ。
天下のハリウッドスターが来るのに、そんなちんけなことできるかいと思って。
監督は舛田利雄さんだよ。あの『トラ・トラ・トラ!』の。できない。どうすんのって。
「おれがやるからいいって言ってんだろう!」って言ってやって、作ったんだよ。壁なんか要らねえと。
壁は、超豪華なきれを垂らしたんだよ。
そうしたら、壁紙に見えるじゃない。壁なんかぴーってもうめくればいいんだから早いもんだぜ、ほらって言って。
その代わり、装飾はしなかった。なんでだと思う? 家具調度品に1億5,000万円分ぐらい掛けた(笑)。
横山大観の屏風だとか、ソファ1本1,000万とかな。大作さんも「おめえら触るんじゃねぇ」って(笑)。

そういうやり取りなんかもあってね、一番大きいのは、大作さんとおれ会ってなかったら、
おれも美術監督もやってないし、今頃は単に管理職の立場になってたと思う。